デイジーの日記(小説)
1日目
どうもこんにちは。私はデイジー。
魔法使いの見習いをやってる。
今は事情があって魔法は使えないけどね。
どうしてこんな日記を書き始めたかというと、
私のお堅いお兄さまからすばらし~い提案があったから。
やることがないからといって、忙しい人間の邪魔をしてはいけない、
毎日何か1つでも探して日記でも書きなさいだって。
うんざり。
書き方がわからないって文句を言ったら、
誰かに日常を話すように書いたら良いって言うんだから。
本当にうんざり。
明日から何か書くことを探さないと行けなくなっちゃった。
日記なんか誰に読ませるわけでもないのに。
どこの誰だか知らない架空のあなた、これから私の話に付き合ってね。
1日目はこれでおしまい!
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2日目
暇すぎて特に書くことがないからお兄さまのことを紹介する。
なんでそんなに暇なのかって?
今は書く気がしないからまた今度ね。
お兄さまの名前はビオラ。魔法使い。
私とそっくりの褐色の肌に白銀の髪、それから白銀の瞳。
そして私と同じくらい整った顔をしている。
二人で街を歩いていたら誰でも振り返って私たちのことを見るんだよ。
お兄さまは成人を迎えて数年たって、仕事も軌道にのってきた感じ。
今が人生の旬!って感じなのに、お兄さまは基本的に毎日眉間にしわをよせて難しい本とにらめっこしてる。
魔法道具を作るのが一番よく頼まれる仕事で、
王様からお願いされることもあるんだって!笑っちゃうよね。
お兄さまの思う「一番良い魔法道具」っていうのは、
魔法使いにも魔法の使えない人にも使いやすい道具のことなんだって。
私はそれぞれが使いやすい道具を別々に作れば良いのにって思うけど。
まあいいや。
今はお兄さまは王国のお偉い貴族様から頼まれた魔法道具を設計中。
そういうわけで邪魔をするなって言われてる。
この家には私とお兄さましかいないのに!
その上、私は今は外に出ることも禁じられている。
魔法使いの書を呼んで勉強する気も起きないな・・・
今日の日記はもうおしまい。
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3日目
訂正をする必要もないと思うんだけど、
私が嘘を書いたと思われるのも嫌だから書いておく・・・
正確にはこの家には私とお兄さましかいないわけじゃない。
身の回りの世話をする使用人として、
お兄さまが作った魔法人形がたくさんいる。
信じられないと思うけど、ぜんぶ同じ顔なんだから!
作るときに面倒だったのか、使用人はみんな赤茶色の髪と瞳で、
地味な顔にひょろりと背の高い男性型の人形になってる。
料理も掃除もそつなくこなすから機能に不満はないけど・・・
唯一、私たち兄妹以外で家に来ていた人間の庭師のおじいさんは、
数ヶ月前に腰を悪くしてから通って来られなくなっちゃった。
庭や温室に植える植物は、お兄さまの指示でころころとよく変わるので、
魔法人形より人が管理した方が話が早くて良いんだって。
まぁ、だいぶ年だったし、残りの人生はゆっくりしてたらいいと思う。
だけど、難しい本と魔法道具だらけのこの家の中で、
嫌なことを忘れてゆっくりできた温室が荒れ放題になっちゃった。
早く代わりの庭師が来ないかな。
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4日目
今日はすごいことが起きた!!!
多分だけど私はこれから面白いことが起きると思う。
説明するね!
まず今日の夕方、珍しく家を訪ねてきた人がいてね。
貴族のお使いの人が来る話は聞いていなかったから、
私は絶対に仕事以外の話だと思って、
お兄さまを押しのけて門のところまで走ったんだ。
玄関の戸を開けて門のところまで行くと、
フードを深く被った薄汚れた人が立っていた。
年齢はお兄さまと同じくらいに見えたし、
田舎の町からはるばる歩いてきたのかなって思った。
門番の魔法人形に戸惑っているみたいに見えて、
高度な魔法に慣れてないのかなって。
そのうちお兄さまが追いついてきて私を叱りつけた。
「おい、お客様のもてなし方も知らないのか?」
失礼しちゃうよね。私はことさらに恭しくお辞儀をしてやった。
「失礼しました。お客様。魔法使いビオラの妹、デイジーでございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「あ、ええと・・・」
フードを被ったお客さんはひどくまごついているみたいだった。
そこにスッと門番とは別の魔法人形が割り込んできて、
「お荷物をお持ちいたします。」
きっと人形がみんな同じ顔だから驚いてるんだろうって思って
私は安心させてあげるためにこう言った。
「使用人はすべて兄の作った魔法人形です。みな同じ顔で驚かれたでしょう。使用人としての仕事は問題なくこなしますので・・・」
そこでしびれを切らしたようにお客さんは声をあげた。
「あの、久しぶり。ビオラだよな?こちら妹さん?俺のこと・・・多分だけど、この様子だと、あの、覚えてるよな?」
そういってお客さんがフードをおろした。
その時私がどんなに驚いたかわかる?
きっとお兄さまの方が何倍も驚いていただろうけど。
そのお客さんの顔は、家中の魔法人形とそっくり同じ顔だった!
「初めまして。デイジー・・・さん。俺は、ドングリって言います。ビオラとは学生時代に学校の寮で同室で・・・えっと、それで・・・」
「・・・オリジナル?」
私は思わず低い声を出してドングリさんをまじまじと見た。
後ろに立っているはずのお兄さまは一言も声を発さない。
今思えば、いつも私に厳しいことを言うお兄さまを
めちゃくちゃに言い負かすチャンスだったのに、
その時は私も驚きのほうが勝っちゃって、
ただの確認みたいにお兄さまの方を振り向いた。
「お兄さま、オリジナルに無断で同じ顔の魔法人形を作っていたの?」
お兄さまは見たことがないくらい真っ青になったり真っ赤になったり百面相をしながら必死に言葉を紡ごうとしていた。
すべて徒労に終わっていたけれど。
そのうちドングリさんの方が助け船を出した。
「あ、あの、別にいいよ。いいよ。いや、驚いたけどさ。俺の見た目を使ってるだけなんだろ。変なことに使ってるわけじゃなさそうだし。言うこときかなきゃ殴るとかお前しなさそうだし・・・」
「そんなことするわけがないだろう」
すっごく食い気味にお兄さまが言った。
この時あまりにも気まずい空気だったから私まで緊張しちゃった。
しばらく沈黙が続いた後、ドングリさんが場を和ませようと話し始めて、私はドングリさんって良い人なんだなって思った。
「いやぁ、俺、お前にはもしかしたら好かれてないんじゃないかって思ってたんだ。だから、ちょっと安心したよ。嫌いな奴の顔、毎日見るのは嫌だもんな。な!」
こんなにフォローしてくれてるのに、お兄さまはいつもの偉そうな顔もしかめっ面も引っ込めてどんどん青くなっていくんだから呆れちゃった。
絞り出すように唯一つぶやいた言葉がこれ。
「今すぐ全部作り直すから・・・」
ドングリさんまで青くなってきたから、私が助けてあげたわけ。
「とりあえず家の中に入ったらどうでしょうか?もう遅い時間だし、もちろん今夜は泊めてあげるよね?お兄さま?」
ほんと、私に感謝して欲しいよね。
明日から何が起こるかな。
本当に楽しみになってきた!
(人物紹介)
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